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東京地方裁判所 昭和30年(ワ)3516号 判決 1956年10月10日

原告 渡辺雅夫

被告 国際観光株式会社

主文

被告は原告に対し金六十万円及びこれに対する昭和三十年三月二十九日から完済に至るまで年六分の割合による金員を支払え。

訴訟費用は被告の負担とする。

この判決は原告において金二十万円の担保を供するときは仮に執行することができる。

事実

原告訴訟代理人は主文第一、二項同旨の判決並びに仮執行の宣言を求め、その請求の原因として、被告は昭和二十九年十二月二十三日、金額六十万円、支払期日昭和三十年三月二十八日、支払地東京都中央区、支払場所駿河銀行東京支店、振出地東京都港区、受取人星野愛作なる約束手形一通を振出し、原告は昭和三十年二月一日星野愛作から右手形の裏書譲渡を受けた。もつとも星野は右裏書に当り「株式会社丸大商店代表取締役」なる肩書を附記したが右会社は実在しないものであるから右肩書は無意味な記載にすぎず裏書の連続に欠くるところはない。よつて右手形の正当な所持たる原告は満期の日支払場所において手形を呈示して支払を求めたが支払を拒絶されたのでここに被告に対し右手形金六十万円及びこれに対する満期日の翌日たる昭和三十年三月二十九日から完済に至るまで年六分の割合による遅延損害金の支払を求めるものであると述べ、被告の抗弁事実を否認した。<立証省略>

被告訴訟代理人は請求棄却の判決を求め、答弁として、被告が原告主張の如き約束手形を振出したことは認めるがその余の原告主張事実は不知。仮に原告が右手形を取得したとしても右手形上受取人は「丸大商店星野愛作」と表示されているところ「丸大商店」とは星野愛作が日常取引に使用していた通称であつてこの場合においても星野個人を特定づける肩書にすぎない。すなわち右手形の受取人は原告自認のとおり星野個人である。しかるに右手形は受取人たる星野が個人の資格ではなく株式会社丸大商店代表取締役なる資格を表示して裏書したものであるからその裏書人は右会社である。しかして裏書連続の有無は手形の記載に従つて形式的に決すべきであつて実質関係上株式会社丸大商店が架空の会社であるか否かによつて左右さるべきではない。従つて右手形は裏書の連続を欠き原告は右手形の適法な所持人と謂い得ないと述べ、抗弁として、仮に裏書の連続が認められるとしても、本件手形は当時財政的に逼迫していた星野愛作の要請により同人が第三者から融資を受けるにつき信用を与へる目的を以て、星野振出の金額六十万円、支払期日昭和三十年三月二十四日、支払地振出地とも東京都中央区、支払場所株式会社北海道拓植銀行築地支店、振出日昭和二十九年十二月二十三日なる約束手形一通と引換に振出交付されたいわゆる融通手形である。しかして被告はその振出と同時に星野との間において右交換手形の支払をなす見込がない限り本件手形を使用しない旨を特約したところその後前記交換手形の支払の見込が全くないことが明らかとなつたので昭和三十年三月中旬頃改めて星野と折衝した結果同人は本件手形を使用しない旨を約した。しかるに星野は右約旨に反し株式会社丸大商店代表取締役の名称を使用して本件手形を原告に裏書譲渡したが原告は被告及び右星野の間に前記特約が存在すること、従つて自己の手形取得により右特約に基く抗弁が遮断され被告を害するに至るべきことを知りながら右手形の裏書譲渡を受けたものである。従つて原告の請求には応じ難いと述べた。<立証省略>

理由

被告が受取人を丸大商店星野愛作とした外原告主張の前掲記載内容を有する約束手形一通を振出した事実は当事者間に争がなく、成立に争のない甲第一号証の一、二、原告本人尋問の結果により真正に成立したものと認める甲第一号証の三によれば星野愛作が株式会社丸大商店代表取締役の資格を表示して右手形を白地裏書の方法により原告に譲渡したことが認められる。

ところで本件手形の裏書連続の存否につき争があるから考へてみると、原告は右手形の受取人欄における「丸大商店星野愛作」なる表示を星野愛作個人を意味するものと解するとともに「株式会社丸大商店星野愛作」なる裏書人の表示は右会社が実在しないことを理由に「株式会社丸大商店代表取締役」なる記載の点が無意味に帰し結局星野愛作個人を意味するものと解してその間に裏書の連続があると主張するが手形における裏書の連続の存否は専ら手形の記載に従い形式的に判定さるべきものであるから本件手形の第一裏書人の表示に従へば株式会社丸大商店を以て裏書人と目する外はなく原告の右主張に理由がないことは明らかである。しかしながら本件手形の外観によつてもその受取人欄における「丸大商店星野愛作」なる表示は「株式会社丸大商店」が略記され且つ「星野愛作」の肩書たる右会社の代表者たる資格が示す文言が省略されているものと認めるに十分であつて右受取人の表示は株式会社丸大商店を意味するものと解することができるから本件手形の受取人の表示と第一裏書人の表示との間には同一性を認めるのが相当である。被告は「丸大商店」とは星野愛作が日常取引に使用していた通称であつて本件手形の場合においても星野個人を特定つける肩書にすぎず右手形の受取人は星野愛作個人である旨を主張するが「丸大商店」が星野愛作の取引上の通称にすぎないと謂う如き事実は手形に記載された文言以外の事実であるから仮にその事実が存在したとしてもこれを以て裏書の連続の存否を判断することは許されないところであつて被告の右主張は採用し得ない。もつとも原告においても本件手形の受取人側における「丸大商店星野愛作」なる表示が星野愛作個人を意味するものであることを自認することは前記のとおりであるが右自白は法律上の評価に関するものであるから当裁判所がこれに拘束されるいわれはない。従つて結局本件手形の裏書は連続するものと謂わなければならない。

次に被告の悪意の抗弁について判断すると原告がいわゆる悪意の手形取得者であることを認定するに足る証拠はないから被告の抗弁は理由がない。

以上の次第であるから被告は原告に対し、本件手形金六十万円及びこれに対する満期日の翌日たる昭和三十年三月二十九日から完済に至るまで商法所定年六分の割合による遅延損害金を支払うべき義務があるものである。

よつて原告の本訴請求を正当として認容することとし、訴訟費用の負担につき民事訴訟法第八十九条を、仮執行の宣言につき同法第百九十六条を各適用し主文のとおり判決する。

(裁判官 駒田駿太郎)

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